まだ、開けない。
〇日目
木桶の味噌と醤油。香りが立つまで、二夏二冬。
仕込みから読む仕込む
一日目
蒸す。掘る。返す。担ぐ。
二月、蔵がいちばん冷える朝に仕込む。大豆を蒸す湯気で、梁が見えなくなる。外は根雪、蔵の中は零度に近い。手だけが熱い。
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大豆
盆地の大粒。ひと晩水を吸わせ、四時間蒸す。
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米
麹になる米。蒸して、種を付けて、二昼夜。
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塩
粗塩。角が取れるまで、桶の中で二年かかる。
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水
花崗岩の伏流水。硬度 25mg/L の軟水。
麹は手で握って、栗の香りがして、菌糸が締まっていたら出す。温度は三十二度、ここだけは譲らない。
五代目の仕込帳、毎年二月の頁に同じ一行がある。
桶に仕込んだ日から、蔵は静かになる。
二日目 蔵温五度。表面、動かず。
寝かす
二日目 — 七百二十九日目
蔵人は毎朝、桶を回って一行書く。頁を埋める判断の多くは“まだ”の二字。それを七百二十九日重ねてから、開ける。百五十年、欠かした日はない。
七百三十日の帳面から、五日分。
- 三十九日目 三月十一日 蔵温六度。表面静か。塩の角、立ったまま。 まだ。
- 百六十四日目 七月十四日 蔵温二十四度。泡、二拍に一度。香り、甘く濁る。 天地返し、一回。
- 二百四十一日目 九月二十九日 泡、遠のく。色に赤み。 一夏目、終わり。
- 四百八日目 三月十五日 蔵温七度。醪、澄む。動かさない。 冬に任せる。
- 七百二十八日目 一月三十日 三番桶、甘い焦げの香り。あさって開ける。 よし。
- 春 醪がゆるむ。
- 夏 泡が数えられる。
- 秋 色が沈む。
- 冬 音がなくなる。
二年分の蔵温。二つの夏が味を押し、二つの冬が味を留める。
時が味を決める。人は帳面を付けて、それを待つ。
七百二十九日目 蔵温二度。明日、三番桶を開ける。
目覚める
七百三十日目
仕込みの日の闇より、いま、蔵は赤い。
三十六本の桶に、三十六の味がある。灯穂はそれを均さない。今年いちばんに香りが立ったのは、三番桶だった。
開ける順番は、香りで決める。日数は目安に過ぎない。
搾る
開けた桶から醪を袋に移し、重石だけで搾る。生揚げが糸を引いて落ちる。
火入れ
釜に火を入れる。香りが立ち、色が定まる。蔵の名の灯は、この火のこと。
七百三十日目 火入れ、済み。蔵を出る。
食卓へ
七百三十一日目
七百三十日は、朝の一杯に収まる。
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かける
冷奴に、たまりを三滴。豆の味が前に出る。
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煮る
大根を、たまりと水だけで炊く。色は濃く、味は静か。
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仕込む
豆味噌に鶏を一晩。朝は焼くだけでいい。
品書き
迷ったら、冷奴で差の出るたまりから。贈るなら、桶番号入りの三番桶。
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灯穂たまり
720ml / ¥2,592(税込)
濃口より甘く、色は濃く、香りは低く長い。冷奴と卵かけご飯で違いが出る、最初の一本。
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灯穂豆味噌
1kg / ¥1,728(税込)
豆だけで仕込む赤褐色。汁にすると澄む。毎朝、味噌汁を作る人へ。
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二夏二冬 三番桶
限定900g / ¥4,320(税込)
今季は三番桶、八百本。桶番号はラベルに刻む。香りで選ぶ人と、贈り物に。
ご注文は蔵元直販のみ。三日以内に発送します。
贈り物にする
のし・木箱・手提げをご用意しています。お届け日は七日先から指定できます。
五万五千八百日目 帳面、五十七冊目。
蔵元
五万五千八百日目
桶の七百三十日を、百五十三年繰り返してきた。原料、桶、寝かせる日数、開ける判断まで、蔵で決めて、蔵で引き受ける。
- 標高
- 四百メートル
盆地。冬は零下十二度、夏は三十三度。
- 年較差
- 四十五度
この寒暖差が発酵の緩急を作る。
- 水
- 硬度 25mg/L
花崗岩の伏流水。角のない軟水。
- 根雪
- 十二月〜三月
仕込みも開封も、寒中に行う。
地名は看板にしない。水と寒暖差は、看板にする。
開ける日は、どう決めるのですか。
香りです。甘い焦げの香りが立った桶から開けます。日数は目安で、遅れる桶は遅らせます。去年の七番桶は、七百五十九日でした。
五代目蔵元
蔵見学は二月と十月、月に二日ずつご案内しています。仕込みと開封の日に合わせてどうぞ。 蔵見学の案内を見る